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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)469号 判決

控訴人 籾山辰男

被控訴人 東京法務局長

訴訟代理人 館忠彦 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し東京法務局昭和三十二年登異第六号事件につき昭和三十三年二月三日付でなした決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、認否、援用は、控訴人において原審における控訴本人尋問の結果を援用した外、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

控訴人所有の本件不動産につき控訴人を登記義務者とし昭和三十二年十月十二日の売買を原因として土地所有権移転登記申請書が昭和三十二年十月十九日東京法務局北出張所に提出され受附第二六五一六号をもつて受理されその旨の登記が完了したこと、控訴人が同年十二月十日付で被控訴人に異議の申立をしたところ、被控訴人が昭和三十三年二月三日付でこれを棄却する決定をなしたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いない、甲第十一号証によれば、登記権利者が東京編物商工業協同組合であることが認められる、成立に争いない甲第二号証の一、二によれば、控訴人が右棄却決定の通知を昭和三十五年三月三十一日受領したことが認められる。

そして、右登記申請書に添附された控訴人の委任状は、委任事項たる、一、左記不動産に対し王子信用金庫に担保設定に関する一件の件、との記載が全部削除され、後記物件を昭和三十二年十月十二日金三十四万九千五百十二円をもつて東京都編物商工業協同組合に売渡したので所有権移転登記を申請する一切の件、との記載がなされており、申請書には添附書類として評価証明書一通と記載されながら固定資産課税台帳登録証明申請書が添附され、申請書の不動産価格は金百二十四万三十円であるのに固定資産課税台帳登録証明書では金百二十四万二十九円となつていることは、当事者間に争いない。控訴人は「本件登記申請は不動産登記法第四十九条第二号、第四号、第七号、第八号に当るからこれを却下すべきものである。」と主張する。右委任状であることに争いない甲第十号証には、一、今般宮越盛二を代理人と定め左の権限を委任す、とあつて、次の行の一、拙者所有左の不動産に対し王子信用金庫に担保設定に関する一切の件、とあるのを朱抹し、次の行に、一、後記物件を昭和三十二年十月十五日金三十四万九千五百十二円を以て東京都編物商工業協同組合に売渡したので所有権移転登記を申請する一切の件、と書かれ、十五日の五を二に訂正し、右朱抹部分の上欄に一字訂正三十二字削除と記載されて、控訴人の印章が押されていること、右委任事項の次の行に物件表示、と記載され、更に、次の行以下に、荒川区日暮里町八丁目八百二十番の十一、一、宅地二百四十二坪五合、同区日暮里9丁目一〇三七番の四、一、宅地五十一坪八合と記載され、同区日暮里の次に、町が一字加入され、その行の上欄に一字加入と記載されて控訴人の印章が押されていること、末尾に控訴人の署名押印があり、控訴人の押印はいずれも同一であると認められるから、同号証の記載及び訂正はその体裁、順序とも極めて自然であつて、同号証のみでは委任事項の訂正が捨印を利用し委任者の意思に反してなされたのであると認め難い。しからば、同委任状をもつて、登記申請手続の代理権限を証する書面であるとする本件登記申請が不動産登記法第四十九条により却下すべきものであるということはできず、その他控訴人の指摘するところは些細な誤記というべく、申請を却下すべき理由とするに足りない。

従つて、右登記申請の受理を正当として控訴人の異議を棄却した被控訴人の請求は理由がない。

よつて、原判決は相当であるから民事訴訴法第三百八十四条第九十五条第八十九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節次郎 奥野利一 渡辺一雄)

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